2011-09-09

ことのこと


“古都”である。

ノーベル文学賞を受賞した作家の原作は読んだことは無いが、
映画の“古都”のことである(1980年版)。

山口百恵引退記念作品として撮られたフィルムだが、
引退30周年記念ではなく、
31周年という半端な時に、
無性に観たくなった。

三浦友和も出てはいるのだが、
深いラヴロマンスは無く、
淡々と山口百恵の、千重子・苗子二役の葛藤が流れていく。
(個人的には、苗子メイクの山口百恵の方が好み)

まぁ。監督が市川崑ということで、
1976年からスタートした、同監督の“金田一シリーズ”と、
どうしてもかぶってしまうのだが、そこが改めて面白かった。

なんと言ってもキャストの顔ぶれが、
個人的にはツボ(ここでは70年代の
市川版“金田一シリーズ”に限定)。

・岸惠子(悪魔の手鞠唄、女王蜂)
・沖雅也(女王蜂)
・石田信之(女王蜂)
・加藤武(市川版金田一シリーズ全ての轟警部)
・小林昭二(市川版金田一シリーズ全て)
・常田富士男(悪魔の手鞠唄、女王蜂、病院坂の首縊りの家)

スタッフでは、
・音楽:田辺信一(獄門島、女王蜂、病院坂の首縊りの家)
・撮影:長谷川清(市川版金田一シリーズ全て)

とまぁ、観ていて、
いずれ石坂浩二がフラッと出てきても何の違和感もなく、
いずれ坂口良子が
「金田一さ~ん、探偵のお手伝いしましょうかぁ」と、
石坂浩二を追いかけ始め、
結局、加藤武がバチンと手を鳴らし、
「よ~し分かった! 苗子の父親は事故に見せかけて、
殺されたに違いない!」
などと言い出してもおかしくない。

これで荒波の日本海をバックに白石加代子が、
「苗子の父親が亡くなりんさった時の事ぁ、
よ~う憶えとります・・・」
なんて言い出そうもんなら、完全に“金田一シリーズ”だな。

そんな感覚で観てしまった。

市川組の作品ということで考えれば、
そうなっても不思議ではないのだろうが、
興味深かったのが、
前年までに撮られた“金田一シリーズ”のキャストから、
“古都”へも出演しているキャストの100%が、
“女王蜂”で占められているということ。

“女王蜂”といえば鳴り物入りで、
佐田啓二の娘を売り出すための作品でもあったワケで、
古都も、山口百恵のフィナーレを飾るべく撮られた作品であり、
新人サラブレッド役者と引退宣言スーパーアイドルの違いはあれど、
似たような背景を持って制作された作品に思える。

であるがゆえの、豪華キャストだろう。
コケられないもんね。

はぁ~、なるほど・・・

と、特にオチは無いのだが、
ちょっと意地悪な観方をしてしまったかな。



と言いつつも、作品そのものは、好きです。
同世代の輩は皆、好きだよね、
山口百恵・・・



余談・・・

山口百恵と同世代で言えば・・・
“病院坂の首縊りの家”の桜田淳子は(宗教問題は別として)、
凄くイイと思う。

2011-09-06

とあるメンチ屋(ちょっと長いです・・・)

特に隠していたわけではないが、メンチカツが大好きである。

例えば、初めて入るトンカツ屋では、
必ずと言っていいほどメンチカツをオーダーする。
で、旨ければ、この店は他のメニューも旨いだろう、
と判断したりする。

もっともここ10年近くは
ほぼ、目黒の“とんき”にしか行ってないが・・・
(ここのメニューにはメンチが無い)



さてこの店、看板には『メンチ』とだけ書いてある。

カラカラと引き戸を引いて店内に入ると、
ドーンとコインロッカーが出迎えてくれる。
使用料は無料。
扉は特注のあつらえで、パッキンが付いており、
中に入れた荷物や上着に、油のにおいが絶対に付かないように、
とのことらしい。

ロッカーの横には、
使い捨てのカッパまで積んである。
こちらも無料。
ただし、使っている人を見たことは無い。

ま、自分はそうでも無いのだが、
気になる人は油のにおいが、相当気になるということなのだろう。

見方を変えれば、そうまでしても、
ここのメンチが食いたいという客が多い、といったところか。

さらに進んで、店内へ。

“とんき”のような白木のカウンター。
ここのカウンターは10席ほどしかないが・・・
そして、ホールには4人がけのテーブルが3卓。

壁に貼ってある「お品書き」には、

『メンチ』16:00~22:00(ラストオーダー)
     日・月・祝休
○メンチカツ………1,000円(キャベツおかわり無料)
○ご飯セット(ごはん・赤だし・香の物)………300円
 (ごはん・赤だしは、おかわり無料)
○瓶ビール(サッポロラガー)………500円
○お酒(丹沢山ワンカップ)………500円
  ※全て税込み価格

と、書いてある。
つまり、ここには『メンチ』しか無いのである。

カウンターの中では、三谷昇にそっくりな大将が、
黙々とメンチを揚げている。

接客全般は、原日出子の若い頃にそっくりな女将が仕切っている。
初めて入った時には大将と親子なのかと思ったが、
ご夫婦だった。

それでも、女将に会いたくて来ている常連が結構いる、
と睨んでいる。
女将は、すっごく可愛いのである。
勿論、メンチが旨いのは言うまでもないが。

片付けや洗い物は、2日変わりで入るバイト君の担当。
中でも、ユーイチと呼ばれているバイト君は、
キャベツ切りまでまかされている。
(彼はキャベツを切るときに、
ちょっと自慢げな顔つきになっているのが微笑ましい)
まかないは、勿論ここのメンチ。
ちょっとうらやましい。

いつものように店内をグルッと確認して、
カウンターのできるだけ端の、空席に座る。

もうだいぶ長いこと通っているので、
何も言わなくても、女将がおしぼりとビールを出してくれる。

グラスではなくコップと呼ぶのがふさわしい、
サッポロのマーク入りの小ぶりのガラス製品は、
いつもほどよく冷えている。

白ラベルのサッポロラガーはやや抑えめの苦みで、
何にでも合うのではないだろうか。
旨い。

最初の一杯はグーッと一息で空け、
あとをチビチビ呑んでいると、程なくメンチが揚がってくる。

皿の上には、小ぶりだが肉厚のメンチが3つ。
なるべく中が冷めにくいようにと、
小ぶりに分けて出しているのである。

それに、まるで自分の方が主役だと言わんばかりの、
山盛りのキャベツの千切りが添えてある。

特性ソースは女将手作り。
メンチとの相性は抜群。
辛子は、和辛子。

それらとは別に、黙っていても醤油がでてくる。
ま、これはキャベツ用。
他の客は醤油は使わないようだ。

いつもご飯セットは付けない。
呑みに来てるのだから。

ころもは、目黒の“とんき”と青山の“まい泉”の間ぐらいの感じ。
“とんき”ぐらい薄いと、挽肉ところもの一体感が出ず、
“まい泉”ぐらい厚いと、挽肉の食感が損なわれてしまう。
確かに、絶妙なころもと言っていいだろう。

肉は合い挽き。
やや粗目(いわゆる“粗挽き”ほどではない)。

大将が自ら仕入れた肉を自らの手で合い挽きにしている。
牛だけだと、味が強すぎ、
豚だけだと、淡泊すぎるらしい。

で、揚がったメンチはジューシー過ぎず、
箸を入れた瞬間、肉汁がダラーっと出るような
下品な現象は起こらず、
艶々と、肉の一粒々々が濡れた瞳で箸を迎えてくれる。
ほどよいコクとシズルの、至福の逸品である。

ころもも肉もそうだが、
仕入れ先やブランドなどは、絶対教えてくれない。
勿論、油(大将のオリジナルブレンド)も揚げ時間も。
ま、当たり前の話だが、当然と言えば当然か。

揚がってきたら、一つ目のメンチでビールの残りを呑む。
このときは辛子もソースも多めに。

ビールが空いたところで、黙っていてもお酒がスッとでてくる。
冷やである(つまり、常温)。

丹沢山のワンカップは本醸造なのだが、
丁寧な造りで、バランスの良い本醸造に仕上がっていて、
キレも良く、揚げ物にはバッチリ。

とはいえ、ここのメンチの油はサラッとしているので、
もともと日本酒に合うような揚がりになるのではないかと思う。

ここからは辛子もソースも少なめ。
ゆっくりメンチと酒を楽しみつつ、
文庫本を読みつつ、時々女将を眺める。
至福の時間だ。

ここのメンチは当然、冷めても旨いので、
こんな楽しみ方ができるのである。

キャベツを少なめで、おかわり。
丹沢山をおかわり。

それらを終えたところで、新しいおしぼりとお茶が出てくる。
この店の客にしては長居な方だと思うが、
嫌な顔ひとつせずに対応してくれるので、つい甘えてしまう。

いつもの流れを終える頃には、
他の客は二回転ぐらいしているかもしれない。

2,500円置いて、店を出る。
いつも思うのだが、このクオリティを考えると、
このお勘定でペイできているのだろうか、と・・・

そんな、いつもの心配をしつつ、
食後のモルトを呑みに行くべく、
フラフラと歩き出した・・・

そんなところで、








目が覚めた。